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最高裁判所第三小法廷 平成9年(あ)99号

右の者に対する所得税法違反被告事件について、平成八年一一月二六日大阪高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人細谷明の上告趣意のうち、憲法三一条、三九条違反をいう点は、原判決は所論指摘の事実を量刑のための一情状として考慮したにとどまり、これをいわゆる余罪として認定し実質上処罰する趣旨で量刑の資料に供したものでないことが判文上明らかであるから、所論は前提を欠き、その余は、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 園部逸夫 裁判官 尾崎行信 裁判官 元原利文 裁判官 金谷利廣)

上告趣意書

平成九年(あ)第九九号

所得税法違反 被告人 野崎泰秀

右被告人に対する頭書被告事件につき、平成八年一一月二六日大阪高等裁判所が言渡した判決に対し、弁護人が申立てた上告の理由は左記のとおりである。

平成九年三月三日

右被告人弁護人 細谷明

最高裁判所第三小法廷 殿

第一 はじめに

本件は、被告人が藤井好子(以下好子という)、酒井君子(以下君子という)及び藤井輝夫の不動産売却を仲介し、同人らの所得税確定申告手続を引受けたことから、同人らのため、所得税の軽減を図ることを企て、税理士である平井龍介(以下平井という)を介し、脱税請負人である鈴木彰(以下鈴木という)に脱税を依頼し、同人らと共謀して好子ら三名にかかる所得税合計約六億五〇〇〇万円を脱税したという、所得税逋脱事犯である。

原判決が是認した第一審判決は、右の逋脱犯の成立を認定したが、被告人に対する刑の量定に当たって、被告人が報酬として受取った一〇八二万円のほかに、好子及び君子から、鈴木に対する謝礼であると偽って、約一億〇三四〇万円の交付を受けていた事実を認定してこれを重視し、二年六月(執行猶予三年)の懲役刑に罰金刑を併科し、しかも、罰金刑について、所得税法第二三八条第二項のスライド制を適用して罰金五〇〇〇万円に処し、原判決も、弁護人の罰金刑にスライド制を適用したことの不当性や、量刑不当の主張をすべて排斥して控訴を棄却し、第一審判決の量刑を是認した。

しかし、原判決は、起訴されていない詐欺の事実を認定して、重く処罰した点で、憲法第三一条、第三九条に違反し、かつ、刑の量定が甚だしく不当であって、破棄しなければ、著しく正義に反すると認められる。

以下その理由を詳述する。

第二 憲法第三一条、第三九条違反について

一 第一審判決は、本件脱税の公訴事実を認定した上、量刑の理由として「被告人は、本件脱税に関与することにより、好子及び君子から謝礼として約一〇八二万円を受領したほか、鈴木に対する謝礼である旨偽って約一億〇三四〇万円の交付を受けて、これを利得して合計一億一〇〇〇万円余りもの極めて高額の脱税報酬を受けており、特に後者の約一億円の交付については、被告人は鈴木から同人に対する報酬を含む金額を指定されてこれを持参するよう要請されていたにもかかわらず、好子及び君子に対して、右金額に加えて鈴木に対する報酬名下に右約一億円もの高額の金員を上乗せして請求し、これら自ら利得していたものであって、その利得の方法についても強い非難を免れない。」と判示し、懲役二年六月(三年間執行猶予)及び罰金五〇〇〇万円という、脱税への関与だけでは到底考えられないような重刑を科した。

そして、第一審判決を是認した原判決は、弁護人の控訴趣意に対し、「所論は被告人が得た利得のうち、一億円余りは納税義務者である共犯者らから騙取したものであるから、これを罰金額に反映させるべきではないというのであるが、被告人は本件脱税によって、利益を得ようと考え、実際にも合計一億一〇〇〇万円余りを利得したものであるから、右利得額を罰金額に反映させることは、何ら不当なこととは言えず…」と判示して控訴を棄却した。

しかしながら、被告人が好子らから一億円余りを騙取したのは、本件の逋脱行為がすべて完了し、鈴木に対する脱税報酬を支払う段階になってからのことで、偶発的な行為である。そのことは、好子らに対する背信行為であり、当然非難されるべきではあるが、これは脱税報酬ではなく、逋脱行為とは全く別個の個人的法益である他人の財産権の侵害であって、脱税とは別個の犯罪であり、租税債権という国家の財産権を保護法益とする脱税事件の評価上は、本来無関係な事情である。

しかるに、原判決及び第一審判決は、右のように起訴されていない詐欺の犯罪事実を、単に量刑のための一情状として考慮したのではなく、その判文からも、また科刑の内容からも明らかなとおり、これをいわゆる逋脱犯の余罪として認定し、実質上これを処罰する趣旨で、量刑に反映させ、過重な懲役刑に加えて罰金刑を併科し、特に罰金刑については、詐取した金額を基準としてその額を量定し、被告人を重く処罰したものである。

二 ところで、刑事裁判において、起訴された犯罪事実のほかに、起訴されていない犯罪事実をいわゆる余罪として認定し、実質上これを処罰する趣旨で量刑の資料に考慮し、これがため被告人を重く処罰することは、刑事訴訟法の基本原理である不告不理の原則に反し、憲法第三一条にいう、法律に定める手続によらずして刑罰を科することになるのみならず、刑訴法第三一七条に定める証拠裁判主義に反し、かつ、その余罪が後日起訴されないという保障が法律上ないので、若しその余罪について起訴され有罪の判決を受けた場合は、既に量刑上責任を問われた事実について再び刑事上の責任を問われることになり、憲法第三九条にも反することになるから許されないことは、最高裁判所の確定した判例(昭和四一年七月一三日大法廷判決刑集二〇巻六号六〇九頁、同四二年七月五日大法廷判決刑集二一巻六号七四八頁、平成三年一〇月二九日東京高裁判決、判例時報一四一三号一二六頁等)であって、原判決は、憲法第三一条、第三九条に違反したもので、右の違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

第三 刑事訴訟法第四一一条第二号の該当事由について

憲法違反の点をしばらく措くとしても、起訴されていない犯罪事実を余罪として認定し、これを処罰する趣旨で量刑資料として考慮し、被告人を重く処罰した第一審判決及びこれを是認した原判決の刑の量定は明らかに重きに失し不当である。

一 原判決が是認した第一審判決は、被告人に対し、懲役二年六月(執行猶予三年)の刑に罰金を併科し、その罰金刑につき、所得税法第二三八条第二項のスライド制を適用して、本来の法定刑の最高額の一〇倍に当たる五〇〇〇万円という高額の罰金を科したが、被告人に対し罰金を併科した上、罰金刑につきスライド制を適用し、しかも、脱税関与により得た脱税報酬の額を超える高額の罰金を科した第一審判決及びこれを是認した原判決の量刑は、重きに過ぎて失当である。

1 同法第二三八条は、その第一項において、所得税の逋脱をした者につき、五年以下の懲役若しくは五〇〇万円以下の罰金に処し、又はこれを併科すると規定し、その第二項において、逋脱した所得税の額が五〇〇万円を超えるときは、情状により、その罰金は、五〇〇万円を超え、その免れた所得税の額に相当とする金額以下とすることができる旨罰金刑につき、いわゆるスライド制を規定している。

所得税法違反等直接国税逋脱事犯について、罰金刑が懲役刑と併科される趣旨は、犯人から犯罪により得た不正の利益を剥奪するとともに、相応の金額を剥奪することにより、不法利益の取得を目的とする犯罪行為が経済的に引き合わないことを犯人に強く感銘させ、世人に悟らせる点にあるとされている(東京高等裁判所平成六年三月四日、大阪高等裁判所平成五年四月二七日、判例時報一四九九号一三五頁)。

そして、直接国税逋脱事犯について、併科すべき罰金刑を本来の法定刑を超えて、逋脱額に相当する金額を上限とすることができるとする罰金スライド制を設けた趣旨は、大規模な逋脱事犯について、五〇〇万円を上限とする罰金刑では、脱税により不法利得の帰属する納税義務者、特に懲役刑の科されることのない法人には、何ら苦痛を生じさせるものではないので、逋脱額の範囲内で逋脱によって得た不法な利益を犯人から剥奪し、高額の罰金刑の併科による特別予防、一般予防の効果をより一層期待しようということにあるものと解される(佐藤英明「脱税と制裁」弘文堂三一〇頁以下)。

逋脱額に連動させる罰金のスライド制は、本来は右のような脱税により不法利益の帰属する納税義務者本人を対象としたもので、その適用は、納税義務者本人については十分な合理性を持つものと思料されるが、脱税による不法利益が帰属することのない、同法第二四四条に規定する代理人等の従業者や刑法第六五条第一項により共犯とされるその他の脱税関与者に対しては、合理性は認められない。

同一の逋脱事犯について、納税義務者本人に対し、スライド制を適用して処罰するのに加えて、脱税関与者に対し、スライド制を適用してまで高額の罰金を科する必要性は乏しく、その立法趣旨から考えても、スライド制を適用することには疑問があるといわなければならない。

もっとも、脱税関与者の中には、本件の鈴木のように多額の不法利益を取得する脱税請負人がいるが、仮に脱税関与者が報酬名目で多額の不法利益を得るようなことがあっても、それは脱税者本人に帰属した不法利益の一部が、関与者の手に渡ったのであって、逋脱行為により関与者に帰属した利益そのものではないし、このような悪質者に対しては、体刑をもって対処するのが刑事司法の在り方であろう。

脱税関与者について、その罰金刑の上限を納税義務者本人の逋脱額に求めることはいかに考えても合理性を欠くといわざるを得ないのである(佐藤前著三一三頁)。

ところで、直接逋脱事犯における納税義務者以外の関与者に対する科刑の実情を見ても、代理人等の行為者については、懲役刑のみが科され、罰金刑が併科されておらないことは、裁判上顕著な事実であり、また、行為者以外の脱税関与者についても、通常の場合は、行為者同様、懲役刑のみが科され、罰金刑が併科されておらず、仮に罰金併科がなされても、罰金にスライド制を適用されることはなく、多額の報酬を取得する脱税請負人のような悪質事犯には、懲役刑の実刑が科されているのである(別添、脱税関与者に対する量刑調べ参照)。

これを要するに、納税義務者以外の関与者に対しては、脱税により納税義務者に帰属すべき不法利益が、事実上代理人等関与者に帰属するような極く特別の場合を除き、罰金にスライド制を適用すべきではなく、単なる関与者に過ぎない被告人に対し、右のような格別の事情もないのに、罰金にスライド制を適用した第一審判決、及びこれを是認した原判決は、まず、この点において明らかに失当である。

2 しかも、第一審判決及びこれを是認した原判決は、被告人が脱税関与により得た不正な利益である脱税報酬の額の四、六倍強という高額の罰金を併科したのであって、犯人から当該犯罪によって得た不正な利益を剥奪しようとする罰金併科の趣旨にも反し、その失当であることは明らかといわなければならない。

3 なお、右のように脱税関与者につき、格別の事情もないのに無条件に罰金にスライド制を適用できるとすると、逋脱額五〇〇万円以下の逋脱罪が起訴されることのない今日においては、逋脱事犯はすべて、第二項が適用されることとなり、結果として、すべての事件の法定刑の上限が、納税義務者本人の逋脱額となるため、関与者にとっては、実質上上限の定めのない罰金刑が併科されることになるので、罪刑法定主義に反するおそれがあるし、そうでないとしても、罪刑の均衡が著しく失することとなって、憲法適合性の問題が生ずることになるのである(大久保太郎「最高裁判所判例解説刑事編」昭和四五年版二〇五頁)。

しかし、脱税関与者につき無条件に第二項を適用することは、法の意図するところではないと思われるのである。

他方、裁判実務の面から見ても、裁判官にこのような無条件の適用を許すとなると、裁判官は、本来の法定刑にかかわりなく、無定量の罰金を科刑できるため、恣意により、量刑が左右されることになり、本件のように脱税行為とは直接関係のない事情を量刑の資料として、被告人が脱税関与により得た報酬を遥かに超える高額の罰金の科刑も可能とされることになる。

そればかりか、逋脱犯のほかに、詐欺、横領等の余罪が併せて起訴されている場合、逋脱罪につき罰金のスライド制を適用することにより、罰金を科することのできない余罪について、犯人が得た不法利益を剥奪するとも可能となるのである。

現に、原判決の是認した第一審判決は、余罪である詐欺の事実につき起訴がないのに、罰金のスライド制を適用し、実質的に詐欺により得た不法な利益の剥奪を行おうとする不当な判決を言渡しているのである。

このように、脱税関与者に対し、罰金のスライド制を適用することによって、脱税関与により得た不法利益の犯意を超えて罰金を科することができるばかりか、本来、刑罰によっては奪うことのできない余罪によって得た利益を剥奪することができるようになり、極論すれば、逋脱額の範囲内であれば、どのような罰金も科することが可能となり、著しく罪刑の均衡を失する結果を招来することになって失当であるといわなければならない。

二 仮に余罪たる詐欺により取得した利益も、原判決の判示するように、脱税によって得た利得だと考えられるとしても、以下述べるとおり、右刑の量定は著しく重きに失し、不当である。

1 被告人の犯行関与の程度や犯情について

(一) 被告人は、第一審判決が量刑の理由で判示しているとおり、好子らの不動産売却の仲介をしたことから、その不動産売却に伴う同人らの所得税を安くすることができれば、同人らに被告人の仲介する不動産を購入してもらうことができ、そうすれば被告人が仲介手数料を得ることができるとの思惑から、従来から右不動産売却について相談をしていた平井税理士に対し、右不動産売却にかかる税金の額を低く抑えて申告したい旨脱税を依頼して鈴木を紹介してもらう一方、好子及び君子に対して脱税を持ち掛けてこれを了承させた上、右両名に代わって、鈴木及び平井と交渉を行って来たという経緯で、本件脱税に関与するに至ったもので、その意味では、本件脱税において重要な役割を果たした者の一人であるといわざるを得ないのであるが、高額で大胆な本件脱税の犯行は、脱税請負人である鈴木が、すべてリードして実行したものである。

被告人は、この鈴木と税の専門家である平井の指示に従って行動していた一介の不動産業者に過ぎず、悪質な脱税請負人グループに属する者ではなく、納税義務者の側に立って使い走りをしていたものであって、犯行そのものについては、従属的立場にあったものである。

このことは、関与者に対する脱税報酬の面からみても、明らかである。すなわち被告人は、鈴木の四億五〇〇〇万円は論外として、請負人グループの岡澤宏の五〇〇〇万円、平井の二〇〇〇万円(第一審での検察官の冒頭陳述書)に比しても、遥かに少額の一〇八二万円を得ているに過ぎず、最も役割が小さかったことを示している。

(二) 被告人は、第一審判決が指摘するとおり、右の脱税報酬を受領したほかに、好子及び君子から鈴木に対する謝礼であると偽って約一億〇三四〇万円の交付を受けており、これが高額の罰金を科される大きな理由になったのである。しかし被告人は、当初からこのような多額の利得を目当てに、本件に関与したものではなかったのであるが、たまたま、鈴木に脱税報酬を渡す段階になって、鈴木からのあらかじめの指示で、鈴木に渡すことを予定して、好子らに準備させていた鈴木個人への報酬分が、自民党への納入金と込みになったということで、鈴木に渡す必要がなくなったことから、折柄経営する会社の資金繰りに困っていたこともあり、好子らが脱税によって、多額の金を自分達の手に残すことになるのがうらやましくなると同時に、自分もその仲介役をするのだから、その一部を取り込んで分け前にあずかろうという考えを起こしたのである(平成七年四月二八日付被告人の検面一四丁)。

右のとおり、被告人は、本件犯行をすすめるうちに陥った金銭感覚の麻痺から出た偶発的な所為であって、計画的な犯行ではなかったのである。

(三) しかも、被告人が取得した右報酬金等一億一〇〇〇万円余りの利得については、鈴木による一連の脱税事件が発覚するに至った直後、被告人は、自ら好子及び君子に対し全面的に事情を打ち明け、謝罪した上で、第一審判決が判示するとおり右の一億一〇〇〇万円余りに加え、右両名から受取っていた正規の仲介料五〇〇万円及び右両名が被告人の提案に基づき平井に対してなした謝礼二〇〇〇万円を含む一億四〇〇〇万円について返還を約して、その旨の借用書を差入れた上、後日平井側が好子らに対して返却した二〇〇〇万円を除いた一億二〇〇〇万円について、被告人所有のマンションに抵当権を設定しており、さらに、右一億二〇〇〇万円の返済に充てるべく、自己の経営する会社の不動産を売却して資産を回収する手続を進めていて、全額返済の見通しも立っており、その結果として、脱税報酬を含めいわゆる不法な利得は全額好子らに返還されることになり、被告人には、現実に何らの利得が存在しないことになっているのである。

(四) 以上のとおり、被告人は、職業的脱税請負人と納税義務者との橋渡しをした後は、納税義務者のために、鈴木らの指示に従って行動していただけの単なる走り使いに過ぎないのであって、本件脱税への関与は従属的立場にあったものである上、詐取した金員についても事実上弁済が行われていること、被告人は、本件各事実を素直に認め、反省していること、業務上過失傷害による罰金一犯以外に前科がないことなど、量刑上被告人に有利な事情が認められるのであるから、被告人に懲役刑に対し、執行猶予の恩典が認められたことは当然としても、高額の罰金負担能力が乏しく、かつ実質上不法利得の存在しない被告人に対し、罰金刑を併科しかつスライド制を適用し、本来の法定刑を一〇倍も超える五〇〇〇万円もの罰金を科したことは、余りにも酷に過ぎ、失当といわなければならない。

2 共犯者等との科刑の比較について

(一) 第一審裁判所が被告人と共同被告人の関係にあった他の共犯者に対し言い渡した量刑をみると、同裁判所は、

平井に対し懲役三年(四年間執行猶予)

及び罰金七〇〇万円(平成八年三月二一日言渡)

好子に対し懲役二年四月(三年間執行猶予)

及び罰金七五〇〇万円(同年七月一五日言渡)

君子に対し懲役一年六月(三年間執行猶予)

及び罰金三〇〇〇万円(同日言渡)

の刑を科しているのであるが、被告人に対する懲役二年六月(三年間執行猶予)及び罰金五〇〇〇万円の量刑は、右納税義務者両名と対比しても、また、本件のほか三件の脱税に関与している平井税理士との比較においても、格段に重くなっている。

ところで、第一審裁判所は被告人に対し、脱税報酬として得た利益の約五倍弱、脱税報酬と好子らから騙し取ったものを加えた金額の四三・七パーセントに当たる異常に高額の罰金を併科したのに対し、共同被告人であった共犯者に対する罰金額は前記のとおり、関与者である平井は、他の三件を含めての利得額二九五〇万(同人に対する判決書二五丁)に対し、二三・七パーセント、納税義務者である好子に対しては、逋脱税額の一七・八パーセント、君子に対しては同じく一五パーセントに当たる罰金刑が併科されており、不法利益の帰属する納税義務者との比較においてはもとより、同じ関与者でも税の専門家である平井と比較しても、二倍もの高率に当たる異常な高額罰金となっていて、関係被告人との関係においても著しく刑の均衡を失して不当である。

(二) なお、所得税逋脱犯に対する罰金刑の科刑の実情をみると、殆ど例外なく逋脱額の一定割合=平均的には二〇パーセント強=の罰金刑が併科されるという運用が確立されていることが認められる(前掲平成六年三月四日東京高等裁判所判決)ところ、これは処罰の対象が、納税義務者自身が行為者である場合の量刑であって、納税義務者ではなく、脱税による不法な利益がそのまま帰属することのない納税義務者以外の関与者について、そのまま当てはまらないことは、法の趣旨から考えて明らかであるが、被告人に対する量刑は、その二〇パーセントをも大きく超えるものであって、到底納得することができない。

三 以上述べたとおり、原判決が是認した第一審の量刑特に罰金刑は、どのような観点から見ても、余りに高額に過ぎ、重きに失することは明白であって、これを破棄しなければ著しく正義に反すると信ずる。

第四 結論

以上詳述したとおり、原判決は起訴されていない余罪たる犯罪事実を認定して、被告人を重く処罰した第一審判決を是認したもので、憲法第三一条、第三九条に違反するものであることは明白であり、かつ、原判決が是認した第一審判決の刑の量定は、甚だしく不当であって、これを破棄しなければ著しく正義に反すると認められ、いずれの点よりするも、原判決及び第一審判決は到底破棄を免れないものと思料するので、更に適正な裁判を求めるため、本件上告に及んだ次第である。

脱税関与者に対する量刑調べ(平成九年二月二一日作成)

作成者 弁護士 細谷明

国税庁発行にかかる最近の税務訴訟資料一九六号、一九七号(平成七年発行、平成五年判決分)二〇二号ないし二〇四号(平成八年発行、平成六年判決分)に収録されている直接国税逋脱事件の判決のうち、納税義務者及びその代理人従業員等を除く脱税関与者(ただし、脱税関与のほかに自己の所得税法違反が併合されているものを除く)に対する科刑の実情を調査したところ別紙のとおりであった。

<省略>

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